小田急線沿線の変貌劇。かつての遊園地跡地が魅せる「緑と都市」の新たな共生圏、なぜ今若者とファミリーを惹きつけるのか【2026現地取材】
向ヶ丘 遊園周辺の街並みが、ここ数年で激変を遂げている。かつて「向ヶ丘遊園地」の閉園で静まり返った小田急沿線の郊外都市というイメージは、今や完全に過去のものだ。2026年現在、生田緑地の豊かな自然環境を守りつつ進められた複合開発プロジェクトが次々と実を結び、都心からわずか20分強という絶妙なアクセスの良さも相まって、子育て世代や感度の高いクリエイターの移住先として熱い視線を浴びている。かつての住宅街は、どのような文脈を経て「わざわざ訪れたくなるカルチャー拠点」へと変容を遂げたのか。
平日の朝、登戸方面から流れてくる通勤客と通学途中の大学生が混ざり合うホームの空気には、どこか穏やかで瑞々しい活気が漂う。実は向ヶ丘 遊園駅の周辺で進行中の変化は、単なる高層ビルの増設といった均一的な都市開発とは一線を画している。低層型の回遊式商業施設や、地域住人が自発的に運営するコミュニティ拠点、そして路地裏に佇むこだわり抜かれたロースタリーやベーカリーなど、「歩く楽しさ」を重視したまちづくりが独自の求心力を生んでいるのだ。
「遊園地跡地」から「自然共生型リゾート」へ:小田急が挑む新たな都市開発のカタチ

かつて地域住民や行楽客に愛され、2002年に惜しまれつつ75年の歴史に幕を閉じた「向ヶ丘遊園」。その膨大な跡地の活用事業が、2026年の今、理想的な形で花開いている。コンクリートで覆い尽くす大規模ショッピングモールではなく、起伏豊かな地形と広大な森林を活かした温浴施設や自然体験型エリア、オープンエアの商業ゾーンが融合したエリアへと再生された。
現地を歩くと、かつてのバラ園の面影を残しつつも、現代のライフスタイルに合わせたリラクゼーション空間が広がる。週末には都内からわざわざ足を延ばす家族連れで賑わい、「遠出せずとも豊かな休日時間を過ごせる場」として機能しているのが印象的だ。歴史の記憶を継承しながら、緑の価値を再定義した空間設計が、都市生活者の疲れた心身を捉えて離さない。
個人店が主役の街:チェーン店依存を脱却した「ローカルカルチャー」の熱量

南口と北口の双方で進む区画整理事業だが、この街の魅力の神髄は「路地」にある。大型店舗の誘致一辺倒になりがちな再開発の波を乗り越え、個性際立つ個人店が相次いでオープンしているのだ。
早朝から香ばしい匂いを漂わせる独立系のサードウェーブコーヒーショップや、地元の有機野菜をふんだんに使ったビストロ、さらにはZ世代オーナーが手がける古着と本を扱う複合ショップまで。店主同士の横のつながりも非常に強く、週末には駅前や路上でのマルシェ企画が日常的に開催されている。資本の力だけに依存しない、地域固有のカルチャー文化圏が着実に根を張っている。
明治大・専修大の存在感:学園都市の若気と「寛容な街並み」

向ヶ丘遊園の日常を語る上で欠かせないのが、近隣にキャンパスを構える明治大学や専修大学の学生たちの存在だ。かつては「安い大盛り定食屋がある学生街」という印象が強かったが、その文脈も多様化を見せている。
学生たちが地域課題の解決に向けた起業プロジェクトを立ち上げたり、空き店舗を活用したワークショップを展開したりと、街の担い手としての参画が目立つ。また、リーズナブルでありながら質の高い居酒屋やカフェが共存することで、世代を超えたコミュニケーションが生まれる独特の寛容さが街全体に漂う。若いエネルギーが街の鮮度を絶えず更新し続けている。
岡本太郎と藤子・F・不二雄:生田緑地エリアが放つ圧倒的なアート&アニメの磁力
駅から少し足を伸ばせば、全国的にも稀有な文化発信拠点へと辿り着く。「川崎市岡本太郎美術館」と「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」という、まったく異なるベクトルで日本を代表する二大巨頭のカルチャーゾーンが、生田緑地の広大な緑の中に佇んでいる。
2026年現在、海外からのインバウンド旅行客の姿も目立つ。しかし観光地特有の喧騒に塗りつぶされることはなく、地域住人が散歩のついでに美術館の敷地内を歩くような、日常と非日常がシームレスに溶け込んだ空間が維持されている。文化と芸術が特別のものではなく、日常のすぐ隣に置かれている贅沢さがここにはある。
新宿20分・代々木上原直通:2026年の住宅市場で「実利と情操」を兼ね備えたエリアとして浮上
不動産市場における評価も目覚ましい。小田急線の急行停車駅であり、隣の登戸駅を利用すればJR南武線や千代田線直通ルートも網羅できる利便性は折り紙付きだ。
リモートワークと出社を組み合わせたハイブリッドな働き方が定着した2026年、都心近傍でありながら圧倒的な緑量を誇る住環境は、住宅購入層にとって極めて魅力的だ。「便利だが無機質な都心のタワーマンション」でもなく、「通勤に苦労する遠くの郊外」でもない。都心へのアクセス性と豊かな情操教育環境の両立を求める若いファミリー層が、このエリアを「第一指名」にするケースが急増しているという。
都市と自然の新たな均衡点:私たちが向ヶ丘遊園に惹かれる本当の理由
都市の急速な近代化が進む一方で、人間が根源的に求める「自然とのつながり」や「人との触れ合い」を感じられる場所は減少しつつある。そうした時代的背景の中で、この街が示す成長のあり方は、日本の郊外都市が目指すべき一つの解答ではないだろうか。
古き良き記憶を抱きかかえながら、新しいカルチャーを意欲的に取り込むしなやかさ。駅を降り立った瞬間に感じる風の心地よさと、どこか温かい商店街の街灯。向ヶ丘遊園という街が放つ独特の熱気は、これからも時代を超えて人々を惹きつけて止まないはずだ。 (出典: 向ヶ丘 遊園(Yahoo!ニュース))