創業120年の老舗「若松屋」が今、世界を魅了する理由――伊勢の伝統食が魅せる2026年の挑戦と食文化の現在地
若松 屋の暖簾をくぐると、香ばしい出汁と揚げたての練り物の香気が一気に視界と鼻腔を揺さぶる。2026年、ファストフードや高度に自動化された食が溢れる現代において、三重県伊勢市に本店を構えるこの老舗は、異例とも言える賑わいを見せている。伝統的なかまぼこ作りの技法を守り抜きながらも、絶えず時代の変化に適応してきたその佇まいは、単なる「古いお店」の枠を超えた食のテーマパークのようだ。
伊勢神宮の参拝客で賑わうおかげ横丁の喧騒の中で、多くの人々が吸い寄せられるように行列を作る若松 屋の店頭では、名物「伊勢ひりょうず」が次々と揚げられている。豆腐と魚肉のすり身に、ひじきやタケノコ、ウズラの卵など9種類もの具材をぎっしりと閉じ込めたその一品は、まさに日本の職人文化が凝縮された傑作と言えるだろう。一口頬張れば、外側の香ばしさと中のふっくらとした食感、そして深い旨味が口いっぱいに広がる。
120年の歴史が魅せる「練り物」の新境地と2026年の食卓

明治38年(1905年)の創業以来、職人の手仕事を第一に掲げてきた練り物の世界。しかし、令和の現在、その価値観は世界規模で再評価されつつある。
ヘルシーでありながら高タンパク。和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて久しいが、ウルトラプロセスフード(超加工食品)への警戒感が高まる2026年のグローバルな食文化において、天然魚のすり身とシンプルな材料で作られる練り物は、まさに「究極のナチュラル・ファストフード」として脚光を浴びているのだ。
伝統の「伊勢ひりょうず」に群がる若者と外国人観光客のリアル

現地を訪れると、意外な光景に驚かされる。かつて中高年の参拝客が中心だった店舗の周りには、スマートフォンを手に写真を撮影するZ世代の若者や、欧米やアジア圏からのインバウンド客が目立つ。
「SNSでこのボリューム満点なひりょうずを見て、絶対に食べてみたかった」と語るフランス人旅行者の姿もあった。食べ歩きという気軽なスタイルと、本格的な和の味わいの融合。歴史ある名店が持つ本物の味わいは、国境や世代の壁をいとも簡単に飛び越えてしまう。
職人技の継承:AI時代だからこそ価値を増す「手作業」のこだわり

あらゆる作業が自動化され、生成AIやロボットが厨房に入り込む時代において、あえて職人の感性を軸に据える姿勢は極めて印象的だ。
魚のコンディションは季節や気温、水温によって毎日異なる。その日の魚の状態を見極め、水加減や塩分濃度を微調整するのは、長年経験を積んだ職人の指先と直感に他ならない。大量生産の工業製品には決して真似できない微妙な食感のグラデーションこそが、人々を惹きつけて離さない理由だ。
持続可能な水産資源と向き合う老舗の挑戦
地球規模での環境変化や水産資源の変動が叫ばれる昨今、伝統を守る側にも大きな変革が求められている。原料となる魚の調達環境は年々厳しさを増しているのが実情だ。
地元の水産業界と連携した持続可能な漁業への貢献や、これまで活用しきれていなかった未利用魚の積極的な商品化など、時代の要請に応じた環境配慮型の取り組みも着実に進められている。伝統とは単に昔のやり方を保存することではなく、未来へつなぐための努力を続けることなのだと教えられる。
旅の目的地へと進化する伊勢・おかげ横丁の熱気
単なる「お土産」を買う場所から、「ここでしかできない体験」を味わう場所へ。観光のあり方自体が体験型へとシフトする中で、店頭での揚げたて提供や体験型ワークショップの展開は大きな成功を収めている。
熱々の練り物を片手に古き良き街並みを歩く時間は、旅行者にとって忘れがたい記憶となる。地域全体の魅力を引き上げる牽引役としても、老舗の存在感は一段と増している。
食文化の未来を編み直す:伝統と革新の絶妙なバランス
時代がどれほど加速し、テクノロジーが進化しようとも、人間が本質的に求める「美味しさ」や「温もり」の原点は変わらない。守るべき本質を頑なに守りつつ、時代に合わせた柔軟な変化を恐れない柔軟性。
今日も香ばしい匂いを漂わせながら、多くの人々の心とお腹を満たし続ける一品。そこには、これからの時代における日本の食文化が歩むべき、一つの明るいヒントが鮮やかに描かれている。 (出典: 若松 屋(Yahoo!ニュース))